星屑から「アメリカン・ヒーロー」へ 2: 第一歩 

 
 
稀代のプロデューサージョイス・セルズニック、そして彼女のパートナー、ジャン・マコーマックと劇的な出会いをするちょうど3ヶ月ほど前、マイケルはガールフレンドに誘われて、サルバトーレ・ダリのパーティに出かけた。
挑発的な作品を発表して既成の画壇を震撼させているダリは、その言動においても時代の寵児であった。
ダリのホストで開催されるパーティがニューヨークの知識人を惹きつけたのは、ダリの圧倒的な才能が放つ引力のせいであったろう。
ダリ自身の魅力もさることながら、夫人ガラの摩詞不思議な雰囲気は、また一段と人々を魅惑した。

いくつもの輪ができているパーティ会場で、その中心にいた女性がふとマイケルを見やった。
やせていて髪の長いその女性は、袖無しの黒いシンプルなドレスの上に、黒いレースをまとっており、ドレスの裾からは細い素足がのぞいていた。
彼女の目はじっとマイケルをとらえている。
彼女の両脇から、何人もの紳士淑女がなにか話しかけながら擦手を求めていたが、彼女はそれに応えず、マイケルのそばまで歩いてきた。
ゆるやかに波打っ黒髪を小さいグレイのリボンで軽くとめているだけなので、ほつれ毛がいっそう彼女の顔を細く見せた。
大きな目でマイケルを凝視しながら、彼女はそっとマイケルの右手をとった。
この時なぜかマイケルは、この初対面の女性こそ、ダリの愛する夫人、ガラであることを直感したという。
ガラはしばらくマイケルの手のひらを見ていたが、マイケルに視線をもどしながら、小さいけれどよく通る声でこう言った。

「近いうちに、アメリカ中の人があなたの名前を知るようになるわ」

それでもきょとんとしているマイケルを、彼女は静かに抱き寄せて、

「もうすぐよ」

と囁いた。そしてきびすを返すと、ガラは何事もなかったように人の波を引き連れて行った。
マイケルには、ガラの予言が一体なにを意味するのかわからなかったが、彼女の言葉は決して不安を与えるものではなかった。
柔らかく降り注ぐ日ざし、とでも言えばいいだろうか。
マイケルは、しかし、ガラ夫人とのこんな一瞬の出会いを、パーティのちょっと奇妙な出来事として程なく忘れ去ってしまった。
だが、マイケルをとりまく環境は、まるで誰かが引いた設計図のように、ある一点を目指して動きはじめていたのである…。

深夜のソファで、ジョイスとジャンの長い一日は、自薦他薦ひしめくタレント志望者をインタビューするだけでは終わらない。
むしろその後こそ鉱脈にあたる確率は高い。
大手のエージェントが競って彼女たちをディナーへ招待し、そこで本命中の本命を売りこむからだ。
売りこみのあったそんな本命を、二人は何人もインタビューした。
にもかかわらず、二人の脳裏からは、深夜のソファで、彼女たちを虜にした「マイケル・パレ」という若者の顔が消えなかった。
1枚の黒白写真…光る目をした男の子の憂いをまぶしたナイーヴな顔のアップ。
クレジットは…「マイケル・パレ」の一言。
「キャデラック」の広告モデルをしたことだけがあの若者のキャリアだった。

「ジョイスも、一目見て私が感じたものを感じとったの」

と、ジャンは語っている。
問題は、その写真に連絡先がないことだった。
どこの事務所に所属しているのか、今何歳なのか、演技の経験がどのくらいなのか…なに一つわからない。
ベテランのタレントスカウトをこんなにも興奮させた若者が、ニューヨークのいずことも知れぬ片隅に埋もれてしまうのか。
そう考えると、ジョイスもジャンも残念でたまらなかった。


めぐりあい。ジョイス・セルズニックがニューヨークに滞在していること、それがこの秋からスタートするTV新番組へ送りこむ新人発掘のためであることは、ショウビジネス界のホットな話題になっていた。
スターを夢見る星屑たちにとっては願ってもないチャンスである。ところが当時マイケルが所属していた事務所は、すでに別の本命を推薦すると決めていた。

マイケルはとにかくドレイク・ホテルへ出かけていった。
すごい熱気と混雑である。順番を待っているらしい若者の列を無視してさらに進むと、男女のドラマチックな会話が聞こえてきた。
台詞テストのようだ。声が途切れた時をねらって、マイケルはその部屋に入っていった。
室内の人々は、とがめるようにこの勇敢な若者を振り返った。

ワークシートにコメントを書いていたジャンが顔を上げた。
彼女は、入口に立ち止まったマイケルを見た。ジャンは、あっ、と声にならない叫びをあげた。
何という偶然!探しあぐねた写真の若者が、いま、彼女の眼前に立っているではないか。
ジャンは、隣に座っているジョイスにこの驚きを伝えようとした。が…彼女はすでに、椅子から立ち上がっていた。
大きく手を広げて、ジョイスは今にもマイケルを抱きかかえんばかりであった。

「探していたのよ、あなたを」

何かがひらめいた時のジョイスの決断は早い。
室内にいた男女を即座に内廊下へ退け、マイケルのインタビューが姶まった。

「ブルックリン生まれ!そうなの」

ジョイスとジャンがフランス誰りを懸念したことなど、マイケルは知る由もない。
当面の問題はクリアした。筒単なスクリプトが渡されて台詞をしゃべる「コールド・リーディング」に入る。
数分もすると、ジョイスは手をふって台詞を中断させた。
ジョイスは翌週もう一度顔を出すように、とマイケルに伝えた。
ABC重役陣に会わせて、カメラテストをするためである。
そして20ドルのタクシー代をマイケルに手渡した。
演技スクールに籍をおいて毎週オーディションを受けていた当時の彼は、小銭にもこと欠いていた。

「ポケットにお金がないどころじゃなかった。家にだって全然なかったんだもの」

マイケルはインタビュアーにそう言って、くすりと笑った。

「タクシーに乗ったかって?ノーノー。トーゼン地下鉄だよ。
ジョイスがくれたお金はシャンパンに化けた。その夜はみんなでシャンパン大会さ」

カメラテスト。「シェフだったら何をすればいいか知ってるんだけど…俳優ってどんな風に振る舞うのか全くわからなかったんだ」

カメラテストの日、ジャン・マコーマックが自分の着ていた赤いシャツをマイケルに貸した、というエピソードはよく知られている。
カメラ映り、カメラに映える色の服、という初歩的な戦略にまったく疎いマイケル。
ジョイスはくどいほどカメラクルーに注文していた。
カメラをできるだけマイケルに近づけて、アップで、と。
ジョイスは、マイケルの瞳をABCの連中に印象付けたかったのだ。
彼の容姿はもとより素晴らしいが、磨かれざる宝石はむしろその瞳の中にあった。
そんな心まどわす瞳をもっていながら、マイケル自身はまったくそれに気づいていないのである。
彼がカメラの前で、そのチャームポイントを売りこむとは考えられなかった。

「とにかくマイケルにぐうーっと近寄って。最大限のアップで彼の顔を撮ってちょうだい」

ジョイスとジャンが見守る中、マイケルのカメラテストがはじまった…。


                 Continued


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