星屑から「アメリカン・ヒーロー」へ 1: マイケル・パレ発見 

 
 
1979年秋 三大ネットワークのひとつABCテレビは「明日のスター」を求めて、全米縦断のタレント・スカウトに乗り出した。
ABCは、当時スター・メーカーとして名声をはせていたジョイス・セルズニック(「風と共に去りぬ」などの名プロデューサー、デビッド・O・セルズニックの姪)を、その最高責任者として契約した。
ジョイスは、誰ひとりとして興味を示さなかったロバート・レッドフォードの起用を強引に推し進め、ハーベイ・カイテルの才能を見出し、リチャード・ドレイファスを世に出した。
カート・ラッセルをエルビス・プレスリー役にキャスティングしたのも、ロブ・ライナーの俳優デビューもジョイスの炯眼によるものであった。
このような実績を信頼したABCが、最高の報酬をもってジョイスを迎え、彼女に新人発掘を託したのである。
ABCは来シーズンを飾るドラマシリーズ「ミスター&ミセス・ドラキュラ」や「Eight is Enough 」「Happy Days」などに、フレッシュな新人をそろえて、ドラマのABC、という評判をさらに確実にしようとしていた。

ジョイスはその時、51歳。ブラウスにVネックのセーターをはおり、ポリエステルのパンツで動き回る彼女は、凄腕のスター・メーカー、というより、サッカーのコーチというほうが似合っている。
彼女は誰にでもドアを開く。
エイトテン(8x10インチ)サイズの黒白写真に履歴をつけて送ってくれれば、あとで連絡する、という。
オーディションの前段階にあたるこういった写真のほとんどは、モデル・エージェントから送られてくる。
モデルは演技のトレーニングを受けている訳ではないし、ましてや演技の経験などないのであるが、何といっても美の集団である。
ジョイスは、ほとんどのモデルを見る、という。ただ、年収300〜400万円を超えるようなモデルやとびきりファッショナブルなグループは、スカウトの対象から外すことにしている。
彼らはすでにモデルとしてのキャリアがあり、TVドラマに色をそえる新人としてデビューするには、プライドがあり過ぎるのだという。

ジョイスは、全米をカバーするタレントスカウト・ツアーの大詰め、ニューヨークへやってきた。
ニューヨークのドレイク・ホテル、そのスイートルーム、2023号室が彼女のオフィスへと変わる。
彼女は2週間、このホテルに滞在して、連日150人もの星屑たちをインタビューするのである。
山積みになった写真で机の表面はほとんど隠れてしまっている。
そこに、ジョイスと彼女のパートナー、ジャン・マコーマックが座る。
サイドテーブルには、ビタミンCの瓶と、ティーポット、それに蜂蜜の入ったジャー。
ジョイスは膝の上にルーズリーフのノートを広げている。
名前とスケジュールがびっしりと書き込まれているノート。
そして、その一人一人はもうすでに、この辣腕のスターメーカーからコメントをもらっているのだ。

                        すっごくキュート
                        あやうい風情がある
                        誰からも愛されそう
                        可愛すぎる
                        美しい目
                        人をひきつける何かがある
                        覚えておきましょう

今日は「ビューティ・デイ」である。
スケジュールにある若者は、ほとんどモデルエージェントからの紹介だった。
列をなしている若者一人に使える時間はたったの5分間。
彼らは、ジョイスとジャンを相手にちょっとした“おしゃべり”をした後、別室で台本を与えられ、せりふのいくつかを読むように言われる。
これが“cold reading”と呼ばれるものだ。

彫刻のような鼻すじ、長いまつ毛を持った大きな目、しっかりした顎、真っ白い完璧な歯、スマイル…。
それぞれにアピールできる個性をもった若者たちである。
彼らに共通しているのは… グロリア・バンダービルト、サスーン、カルバン・クライン、といったブランド物のジーンズを身につけていることであろうか。
最初のおしゃべりは、友人同志のそれのように軽いもので、これによっておおざっぱな印象を掴む。

「Hi、どこから来たの? 身長はどれくらい? 今までにお芝居をしたことは? 何歳になるの?」

といった調子だが、最後の質問はくせ者だ。
男の子はストレートに答える。
女の子は…実にいろんな手を使う。
「いくつに見えたらいいのかしら?」と一人の女性は問い直した。
またある女性は、28才である、と告白する前に、「本当に知っておかなくっちゃいけないんですか?」と尋ねたものである。
20代半ばになると、自分がもう峠を越しているということを、彼女らはわかっているのだ。
ジョイスは彼女たちが嘘つきであるのを知っている。
ほとんどの若者は、ちょっと若い年令を主張し、すこし高めの身長を申告する。
「10歳くらいのサバならかまわないの、身長も5、6センチなら問題ないわ」と、ジョイスは言う。

ざっと面接したうちの何人かが呼び戻され、今度はキャスティングの責任者、ゲイリー・パドニー、ABCの重役ランディ・ジェームズ同席のもとに、もっと時間をかけた会話が行われる。
動作や態度、後ろ姿までも入念にチェックされた後、一握りの若者たちがカメラテストにこぎつける。
その数少ない一人は、えくぼの愛らしいラルフ・マッチオであった。
そのとき18歳であったが、彼はずっと若く見えた。
すでに映画デビューを果たしていたせいか、マッチオのプロ根性は見上げたもので、自分の納得がいくまで、カメラテストを要求した。

その結果、彼は“Eight is Enough ”のレギュラー、15才の少年役をかちとったのである。

こうして日程のほぼ大部分が終わろうとしていた。
ジョイスもジャンも疲れきっていた。
予定の面接をこなした後その日のうちに有望そうな若者を残していく作業をするのだがゆっくり食事をとる暇もない。
もう夜中の2時になろうとしている。カサカサになったサンドイッチをほおばりながら、ジャンはもういちど写真の山に手を伸ばした。
数枚をめくったとき…あまりの衝撃に彼女の声がふるえた。

「ジョイス、ねぇ、ちょっとこれを見て」

ビタミンCのボトルをもったまま、向いのソファからジョイスがまわりこんで、ジャンの後ろに立った。「不合格」にファイルされていた8X10の写真には、なんともいえない不思議なムードの若者が写っている。ジョイスの目が輝いた。

「なんてムーディな子なの。それにこの目!」

ふたりの女性は顔を見合わせた。
写真の裏にはひとこと…マイケル・パレ、とあるだけだ。フランス人か、訛があるだろうなぁ、とジャンがガックリする。

「この顔だったら何も言わせない。訛りなんてなおせるものよ。とにかく、この子をさがし出しましょう」

                 Continued



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